
今回も開示ネタです。
日本公認会計士協会が、11月13日に、
「開示・監査制度の在り方に関する提言」
を公表しました。
会社法と金商法の開示、監査制度の一元化に向けて、
以下の提言を行っています。
- 投資家が必要とする十分な情報を効果的かつ効率的に提供するとともに、情報開示の不効率性及び監査対象の重複、後発事象の取扱いといった二元的開示制度による我が国固有の問題点を克服するため、会社法と金融商品取引法の法定開示における財務情報は一元化し、監査も実質的に一元化すべきである。
- 各上場会社が、株主・投資家が必要とする情報を信頼性あるものとして提供できるタイミングに基づき、1か月程度の議案検討期間を確保したスケジュールで情報開示を含む株主総会関連日程を設定すべきである。
- 上記に従い、定時株主総会開催日の設定に当たっては、従来の決算日後3か月以内の開催には拘らず、決算日後3か月を超える日程での開催も当然のこととする柔軟な対応により、株主総会の分散化を図るべきである。
実現すれば、まさに理想とも言えます。
しかし、実現するのは容易ではないでしょう。
会計士協会の提言のねらい
開示に関する提言に見えますが、
この提言の本当のねらいは、十分な監査期間の確保です。
監査期間について、会計士協会が問題視しているのは、
速報値であるはずの決算短信までに、監査を実質終わらせていることです。
- 決算日後、短信発表日までの平均日数が、39.9日
- 上場会社の4割が、それまでに会社法監査を終わらせている
- 短信に間に合わないとしても、ほとんどの会社が5月中旬までに監査を終わらせている
これでは、監査期間が短すぎる!
というのが、会計士協会の主張です。
諸外国では、決算日以後、おおむね60日で
監査報告書が発行されているそうです。
十分な監査期間を確保するための施策
そのための施策が、提言にあったとおりの
- 会社法の計算書類と、金商法の有価証券報告書を同時に開示すべき
- 株主総会を後ろ倒しすべき
というものです。
株主総会を後ろ倒しするのは、
会社法監査の期日を決めるにあたり、
招集通知がボトルネックとなるためです。
招集通知には、計算書類の監査報告書が添付されます。
株主総会の1週間前までに発送する必要があるのですが、
それに加えて、印刷に回す期間を考慮しなければなりません。
なので、株主総会を後ろ倒ししない限り、
望むような監査期間は確保できません。
提言が実現するために絶対に必要な条件
会計士協会の提言を実現させるためには、
会社がどうしても受け入れないといけない条件があります。
それは、決算短信を完全に会社の責任で出す
という条件です。
- 決算短信は速報値である。
- 計算書類や有価証券報告書といった確報値とは違うので、監査人による信頼性担保は必要ではない。
- 短信の後の監査で数字が変わっても、監査人に責任はない。
今でも、建前ではそうなっています。
しかし、現実は違います。
なので、それがあっさりと受け入れられるかといえば、
まぁ、難しいでしょう。
会社からしてみれば、監査人側の一方的な言い分と映るはずです。
そんな監査人いらないと言われれば終わりです。
というわけで、短信がある限りは、
そこをターゲットとして監査が進むのは
やむを得ないことです。
現実的には、短信の情報は多すぎるので、
もう少し減らすぐらいが限界かな、と思っています。
会社法の計算書類と、
ほぼ同程度の開示をしている短信もありますが、
速報値であれば、いらないのかなと。
実は悪いことばかりでもない
とは言え、監査人としても、
決算短信が監査のターゲットとなることで、
救われている部分があります。
というのは、監査なんて締め切りがなければ、
永遠にやり続けることができます。
締め切りが延びたので、
締め切りの1週間前に余裕をもって監査が終わる
なんてことはありません!
常にギリギリまでやり続けるのが監査です。
なので、締め切りが先に延びるほど、苦しみも続きます。
今のように決算短信が監査のターゲットになっているからこそ、
早くラクになれるという側面も無視できないワケです。