監査がうまくいかない本当の理由(その2)

監査対応をしていて
- なぜ、こんなにたくさんの証憑を要求するのか?
- 証憑を要求する取引の金額が小さ過ぎるのではないか?
- その取引にリスクはない(合っているに決まっている)のではないか?
このような疑問を持ったことはないでしょうか。
4~5年前ぐらいから、監査で大量の証憑突合が要求されるようになりました。
そのきっかけは、監査品質に対する外部レビューでした。
(外部レビューについてはこちらの記事をご参照ください。)
PL項目(特に売上)に対する監査が弱い
BS項目の監査は残高があるのでやり易いのですが、
PL項目は残高がなく取引量も多いので、
主に分析に頼る監査が広く行われていました。
それに対する外部レビューでの主な指摘は、
- 売上に対して不正リスクを識別しているが、分析しかやっていない
- 売上の前期比較(分析)は、実証手続ではない
- 売上取引に対する詳細テスト(証憑突合)が必要だ
というものでした。
売上に対して証憑突合を行う際に問題になるのは、その件数の多さです。
売上が、小さな売上単価と大量の取引で構成されている会社の場合、
証憑突合の必要件数を算定する監査テンプレートに当てはめると 数百件となることがあります。
証憑突合の件数が増え過ぎると何が起きるか
とにかく件数を稼ぐために、以下のような突合しやすい
(合っているにきまっている)取引が選ばれます。
- 入金記録が売上と1:1で対応している。
- しっかりした検収明細を得意先が送ってくれる
その逆の取引(入金記録と売上の紐付きが難しい、検収明細がない)を選べば、
監査が終わらなくなります。
請求書は、監査を受ける会社が作成する資料なので 有効な監査証拠とはみなされません。
必要件数を充足しないと監査が終わらないため、
監査スタッフは必死です。
その結果、監査の本来の姿である「リスクアプローチ」の逆をいく、
「リスクのないところアプローチ」が行われることになります。
監査人はバカなのか
もちろん、監査人も大量の証憑突合をこなすことに意義は見出していません。
クライアントに迷惑をかけている認識もしっかりと持っています。
そのため、外部レビューがあった際には全力で反論しています。
我々が想像できる全ての反論を試みて、それでも歯が立たず、
このような監査になったとご理解ください。
たとえば、リスクのある取引だけを抽出して証憑突合すると反論しても、
- なぜそれだけがリスクなのか?
- 他にはないのか?
と詰められて、結局、売上の全てが対象になったりします。
万人が納得する理由をつけるのは非常に難しいので、
結果、監査が保守的になります。
監査法人に向けられる目は想像以上に厳しい
以上が、監査現場が思考停止する環境の一例です。
社会的責任の重さから、監査法人に対する 外部レビューが重要なのは間違いありません。
しかし、監査法人は大手になるほど、
ある種理不尽なレビューを受けていて
レビューに対応するための監査を優先せざるを得ない状況が
存在するということをご理解いただければ幸いです。