有形固定資産の減損の監査は会社を怒らせる

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決算事前打ち合わせの時期になると思い出すつらい出来事があります。  

店舗型ビジネスを営むこの会社は、
リーマンショックの影響からなかなか抜け出せず、
売上が右肩下がりでした。

減損の兆候があるのは明らかで、
不採算店舗が多数存在していました。  

このような状況でも、
減損損失の計上は不要というのが会社の主張でした。  

そのために会社が作成した中期利益計画では、
売上高が毎年30~40%増というものでした。

当時の環境下では、
そのような明るい展望はとても見通せる状況ではありません。  

私は経理部長に過去の利益計画と実績のかい離状況を示した表を提示し、
その利益計画は、過去の実績と比較して達成可能性が著しく低いという見解を伝えました。  

経理部長は、目を閉じ、黙って腕組みをしながら、
軽くうなずきながら静かに私の説明を聞いていました。  

突然の大激怒

そんな経理部長の反応を見て、
「わかってくれたのだ」と勝手に勘違いし
「再度、より現実的な数値で検討して下さい」と言った瞬間、  

「貴様ぁぁぁーーー!!!俺を首にする気か???」  
「貴様は何年この業界にいるんだ???俺が達成できると言ったら達成できるんだ!!!」  
「貴様が「うん」と言うまで、この部屋を出さねえからな!!!!!」  

今まで静かであった経理部長が、烈火のごとく怒りだしました。

経理担当役員、経理担当者も参戦し、
私は3人から「なぜ利益計画が達成できないと断言できるのか」
とボコボコに攻め続けられました。  

その後、同じ話の繰り返し、平行線のまま、5時間の軟禁。
時刻は午前2時。

会社の皆様も疲労困憊のようで、
いったん解放してくれました。  

しばらくこの会社に行くのが嫌になりました。。。  

利益計画の妥当性を監査上どのように判断するか

会社の主張にも一理あります。激怒する理由もわかります。

業界の知識では会社にとうていかないません。
もしかすると、利益計画通りになるかもしれません。  

しかし監査上では、かなり保守的に利益計画の信頼性を判断します。  

  • 過去に立案した利益計画と実績を比較し、その達成率をレビューする。
  • 達成率が悪い場合は、利益計画の信頼性が低いため、実績をベースに考え、受注残や契約により確定している売上のみを考慮する。

客観的な目で見て、達成できるかどうかが重要なため、
翌期の数値がいきなり跳ね上がるのは受け入れ難いわけです。  

結局は減損してもらいました

監査人として妥協することなく、
何度も何度も会社と議論を重ねました。

最終的には経理部長にもご理解を頂き、
会社は莫大な減損損失を計上しました。  

会社に減損できる体力があったことも幸いしました。  

「貴様ぁーー!!!」ほか、罵声を浴びせられましたが、
少しもこの経理部長のことを恨んではいません(びびっていますが)。

私もその経理部長の立場にいたら、恐らく同じような気持ちになっていたでしょう。  

その翌年、最初に提出された利益計画は達成できませんでした。

今となっては、その経理部長も
「減損損失を計上した判断は正しかったね」と言ってくれています。  

また、その当時、本気でぶつかり合ったためか、
今では私のことを信頼してくれて友情すら芽生えています。  

見積もりの監査は難しい

このように、固定資産の減損損失、繰延税金資産の回収可能性
といった見積もりの監査は とてつもなく難しいです。  

将来のことがわかる人などいません。

達成できないと考えていた利益計画が、
達成された経験も何度もしています。  

見積もりが財務諸表数値の基礎となる以上、
それでも監査する責任があります。

とても重い責任だと思います。  

ちなみにIFRSは

だいぶGAAP差異はなくなってきましたが、
日本基準よりも多くの見積もりを要求します。

これからどれだけ利益を出すかという将来情報を重視しているためです。
(従来は、どれだけ利益を出したかという過去情報重視)。  

監査する立場からすれば、たまったものではありません。。。

「お前は何年この業界にいるんだ?お前に何がわかるんだ?」
と言われる機会が増えるわけですからね。  

私がIFRSを好きになれない理由の1つです。