監査に耐えられるWACCの計算方法 4 - 自己資本コストの決定

最後に自己資本コストの計算です。
有名なCAPM(Capital Asset Pricing Model)
を使用します。
rE | = | rf(1-tc) | + | β | x | (rm-rf) |
rE: 自己資本コスト rf: リスクフリーレート
β: 株式ベータ
rm: 株式市場の平均期待リターン
tc: 実効税率
以下、それぞれの数値について解説します。
この記事の目次
リスクフリーレート(rf)
国債利回りを使用します。
10年国債利回りと20年国債利回りの
どちらを使用するかについては議論があります。
実務では発行額や取引量が多いという理由で、
10年国債利回りを採用することが多いようです。
株式市場の平均期待リターン(rf)
4~6%を使用します。
なかでも、5%を採用することが多いようです。
理論的には、将来の期待収益率を直接投資家から聞く方法と、
過去の株式・債券の利回り実績から計算する方法があるそうです。
私も詳しい計算方法は確認していませんが、
4~6%の間で設定していれば問題ないはずです。
株式ベータ(β)
ベータ値は、マーケットとの連動性を示す指標です。
ベータ値が0.5の場合、マーケットが1動くと個別株式は0.5動きます。
ベータ値が1.5の場合、マーケットが1動くと個別株式は1.5動きます。
ベータ値が1を超えるとハイリスク・ハイリターン、
1より小さいとローリスク・ローリターンです。
ベータ値の計算が最も手間がかかります。
以下、順に見ていきます。
ベータ値の具体的な計算方法
会社が上場していれば、その会社のベータ値を使用できます。
実務では、複数の類似上場企業のベータ値を
平均することで精度を向上させます。
会社が非上場の場合、
類似上場企業のベータ値を参考にして決定しますが、
ひと手間必要になります。
以下に示す計算は非上場会社を前提にしています。
1.類似上場企業の株式ベータ(レバードベータ)を計算する
株価から算定したベータを株式ベータといいます。
株式ベータは資本構成(レバレッジ)の影響を受けているので
レバードベータとも言われます。
株式ベータは、以下の3つの方法で入手できます。
① 東証が販売している「TOPIX β」を購入する
60ヶ月と30ヶ月の2種類のβ値が収録されています。
お金に余裕があれば購入してもいいと思いますが、エクセルでも計算可能です。
JPXデータクラウド
② Bloombergの端末を利用する こちらも有料です。
無料の銘柄情報にもβ値がのっていますが、
どのように計算しているのか不明なので使い辛いです。
③ 過去の株価情報からエクセルで計算する
このサイトが抜群にわかりやすいです。
エクセルを使った株価ベータ値の算出
なお、参照先のサイトでは、
ベータ値を算定する際に使用する株価の期間を1年としていますが、
5年にしてください。
短い期間はボラティリティの観点からも妥当ではありません。
2.株式ベータから資産ベータ(アンレバードベータ)を計算する
前述のとおり、株式ベータは資本構成(レバレッジ)の影響を受けています。
類似企業といっても資本構成は、ばらばらです。
そのため、資本構成の影響を除いた事業リスクのみのベータを求める必要があります。
これを資産ベータ(アンレバードベータ)といい、
下表のとおり計算します。
A社 | B社 | C社 | |
① 有利子負債の時価 | 54,000 | 0 | 7,000 |
② 株式時価総額 | 74,000 | 29,000 | 20,000 |
③ D/Eレシオ (a/b) | 0.73 | 0.00 | 0.35 |
④ 株式ベータ | 1.46 | 1.06 | 1.55 |
⑤ 実効税率 | 40% | 40% | 40% |
⑥ 資産ベータ ④÷(1+(1-⑤)☓③) | 1.02 | 1.06 | 1.28 |
資産ベータの平均値 | 1.12 |
理論上、同じビジネスを営む会社は株式ベータが異なっていても
資産ベータはほぼ等しくなるそうです。
3.資産ベータを会社の目標資本構成で、再度株式ベータに戻す(リレバードベータ)
会社の目標資本構成による財務リスクを反映させます。
計算は以下のとおりです。
①資産ベータ | 1.12 |
②目標DEレシオ | 0.5 |
③実行税率 | 40.0% |
株式ベータ ①☓(1+(1-③)☓②) | 1.45 |
これでようやくベータ値が完成です。
まとめ
以上で、WACCの計算に必要な全ての数字を求めることができました。
あとは計算式にあてはめるだけです。
税引き後のWACCになりますが、日本企業の平均値は6%です。
最も頻度が高いのが5~6%のレンジで、
10%を超える会社はハイリスクな事業を営む会社といえます。
自社のWACC計算結果が平均値と比較して著しく乖離している場合、
個々の変数や類似企業の選定などを見直すことをおすすめします。
とにかく、WACC計算には数多くの論点が存在することが
ご理解いただければ幸いです。
私も軽い気持ちでまとめようと思ったのですが、
思いのほかたいへんでした。。。
(追記)
お問い合わせいただければ、ご希望の方に 私が使用したWACCの計算シート(エクセル)を差し上げます。
思いのほか、WACCの記事に関するアクセスが多いので、お役に立てるかと。
(追記の追記)
WACC計算シートを無料で差し上げるのを終了いたします。
何よりも、仕事につながらないことが理由です。
また、名前も名乗らずに、メールを送ってこられる方も多く、困っております。
今後は有料にいたします。
有料でも構わないという方のみご連絡ください。