不正とは?不正の論点まとめ

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不正のトライアングル

オリンパス、大王製紙、東芝と、
毎年のように、どこかで不正が発生し、
その都度、大きなニュースになっています。

なので、不正を見聞きする機会は多いと思うのですが、
「不正とは何か?」と考える機会は少ないのではないでしょうか。

一口に不正と言っても、

・不正の定義
・種類
・手口
・関係する人
・発生する要因
・見つからない要因

などはさまざまで、
不正の論点は数多く存在します。

そこで今回は、「不正とは何か?」を理解するために、
不正に関する論点をまとめました。

 

不正の定義

不正の定義は様々あります。

日本公認会計士協会の「不正調査ガイドライン」では、不正を幅広く解釈し、
「法律、規則、基準(会計基準を含む)及び社会倫理からの逸脱行為」としています。

同じく日本公認会計士協会の
監査基準委員会報告書240「財務諸表監査における不正」では、
「不当又は違法な利益を得るために他者を欺く行為を伴う、経営者、取締役等、
監査役等、従業員又は第三者による意図的な行為」としています。

日本公認不正検査士協会(ACFE)は、不正の体系図を紹介し、
不正を、汚職、資産の不正流用、財務諸表不正の3つにカテゴリー分けしています。

不正のツリー

出典:一般社団法人日本公認不正検査士協会:職業上の不正と濫用に関する国民への報告書(日本語訳)2014年

不正に対する基準、ガイドラインを公表している団体

不正の定義がいくつも存在するのは、
さまざまな団体が、それぞれの視点で、
不正に対する基準やガイドラインを公表しいるためです。

各基準・ガイドラインの公表に至った背景は、さまざまですが、
不正を発見、防止、調査する人に対する社会的な要請に基づくことが共通します。

関係者 基準/ガイドライン 公表に至った背景
内部監査人 内部監査の専門職的実施の国際基準(IIA:2013年1月) 世界的にみて不正・不祥事は継続的に発生している。内部監査人の基本的な役割として不正の未然防止・発見についての期待があるため、IIA国際基準にて明確化された。
外部監査人 監査における不正リスク対応基準(金融庁:2013年3月) 国内ではオリンパス・大王製紙による不正の発生から、ガバナンス不信を克服するために、監査基準で不正への対応が明確化された。
不正調査人
(会計)
不正調査ガイドライン(日本公認会計士協会:2013年9月) 企業不正発覚時の企業の説明責任を果たすため、第三者調査委員会を組成して、その調査結果を公表するという実務が定着している。
しかし、不良な調査が多発したため、不正調査の水準を確保するためにガイドライン(弁護士と公認会計士等の専門職に対する自主規制)が作成された。
不正調査人
(法律)
企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン(日本弁護士連合会:2010年12月)
監査役 監査役等と監査人とのより一層の連携について(日本監査役協会:2013年4月) 不正に対して有効な監査ができていないとの認識から、監査役等の調査研究団体が監査役監査の基準のなかで不正への対応を明確化した。
内部監査部門や会計監査人との連携について強化することとした。
経営者 改正COSO内部統制フレームワーク(COSO:2013年5月) 不正を発見・防止する責任は経営者が負う。COSO内部統制フレームワークは不正対応のフレームワークを提供するものである。

不正の3つのカテゴリー

不正の定義はいくつも存在しますが、
コーポレートガバナンスの定義ほどバラバラではありません。

上に示した日本公認不正検査士協会(ACFE)の「不正の体系図」のとおり、
どんな定義であっても、不正は大きく3つにカテゴリー分けできます。

・汚職(違法行為)
・資産の不正流用(横領)
・財務諸表不正(粉飾決算)

うち、財務諸表監査に関係するのは、下の2つになります。

経営者不正と従業員不正

粉飾決算として、大きなニュースになるのは、
ほとんどが、経営者主導の不正(経営者不正)です。

数千億円単位の不正を、従業員レベルで行うのは、ほぼ不可能です。

経営者は、整備された内部統制を無効化できる特別な立場にあるので、
会計記録を直接的に、または従業員に指示することで間接的に改ざんできます。

加えて、経営者不正は組織ぐるみでの隠蔽を伴うので、発見が困難です。

従業員不正も発見は難しいのですが、「従業員不正を防ぐ」
という観点では、経営者と監査人で目的が一致します。

なので、経営者に質問することで、有益な情報を得られるという点が、
経営者不正との大きな違いです。

以上から、経営者不正は、従業員不正に比べて金額が巨額になり易く、
かつ、見つけることが困難という特徴があります。

外部監査(公認会計士の会計監査)で不正は見つかるか?

下表は、不正発見に至った手段の「割合」を示した表です。
こちらも、日本公認不正検査士協会(ACFE)のレポートから引用しています。

不正発見の手段別割合

外部監査で不正が発見されたのは、わずか3%であることが分かります。

レポートでも、次のように書かれています。

外部監査は大多数の組織により使用されているが、職業上の不正を防ぐのに最も効果の薄い対策法に数えられる。

非常に残念な結果に思えますが、
実際のところ、外部監査では不正は、ほとんど見つかりません。

・クライアントと監査人の力関係(お金をもらって監査している)
・クライアントの協力なしに監査はできないが、不正では嘘をつかれて協力が得られない
・不正を見つけるには情報が少なすぎる

などなど、見つからない要因はいくらでも存在します。

私の監査経験でも、監査現場で不正が見つかったのは、1度だけです。
その時の手口は、在庫の単価付替えによる在庫の水増しでした。

不正が見つかるのは、東芝がそうであったように、
ほとんどの場合が内部通報です。

不正のトライアングル(不正の発生要因)

米国の犯罪学者であるD.R.クレッシーが導き出した
『人が不正行為を実行するに至る仕組み』の理論です。

「不正リスク対応基準」でも採用されている考え方です。

①機会、②動機・プレッシャー、③姿勢と正当化
という3つの不正リスク要因がすべてそろった時に
不正が発生すると考えられています。

不正のトライアングル

動機とプレッシャー

動機・プレッシャーとは、
不正を実際に行う際の心理的なきっかけのことです。

処遇への不満等の個人的な理由や、外部からの利益供与、過重なノルマ、
株主や当局からの圧力等の組織的な理由が原因として考えられます。

不適切会計事例にみられる「動機とプレッシャー」の例

カリスマ経営者

事業をゼロから立ち上げ成長させたカリスマ経営者として社会的に高く評価されていた

専属業者の救済

国内景気が悪化する中、経営基盤の弱い中小零細規模の専属業者を救済する必要があった

業績連動報酬

首謀者に売上の拡大に連動する報酬が支払われていた

機会

機会とは、不正が可能な環境が存在する状態のことです。

重要な事務を一人の担当者に任せている、必要な相互牽制、承認が行われていない
といった管理上の不備が主な原因になります

不適切会計事例にみられる「機会」の例

人事管理の不備

首謀者が人事評価権限を有しており、誰も逆らえなかった。管理者は首謀者に対して遠慮があり、手法に疑問があっても積極的に指摘する者はいなかった

物流管理の不備

首謀者の権限で独自に外部倉庫を有することが許されていたため、その外部倉庫にて取引実体に合わない在庫を保管することができた

資金管理の不備

他の子会社と異なり独自の資金調達(手形割引およびファクタリング)が可能となっており、不適切な会計処理を存続させることにつながった。

ITシステムの不備

会計システムの機能である売上債権と在庫の連動性が解除されたまま、長期間にわたり見直しが行われなかった。

子会社管理の不備

事業リスクのあり方が、全く異なるビジネスを複数有していたが、各子会社の経営者および管理者に対し、どのような権限が委譲されているかを定期的に検証し、見直す体制がなかった。

姿勢と正当化の例

姿勢と正当化とは、不正を思いとどませるような倫理観、遵法精神の欠如であり、
不正が可能な環境下で不正をしない意思が持てない状態を指します。

不適切会計事例にみられる「姿勢と正当化」の例

秘密裏に問題の解決を図ろうとした

不適切な会計処理の兆候以上の事情を把握しながら、正確な問題把握を怠り、ごく一部の役員等のみで解決しようとした。

欧州の経済状態等を無視した販売計画

リーマンショック後、欧州の景気が悪化を続ける中で、欧州地域統括会社では親会社との短期的な予算達成を優先させ、逆に販売量を拡大する計画を策定していた。

過年度における不適切な 会計処理

他の子会社における会計監査人の交替により、過年度の会計処理が否認された。この問題が明らかになることを避けようとする考えが親会社の経営者の中で働いた。

専属業者の救済

国内景気が悪化する中、経営基盤の弱い中小零細規模の専属業者を救済する必要があった。この取り組み姿勢について、親会社等から否定的な見解を述べる者はいなかった。

不正が長期間に渡って発見できない要因

不正を長期化させる要因は、不正の兆候に対する経営者の無関心です。

正常性バイアスや現状維持バイアス、苦手意識等の影響によって、
経営者がリスクを知覚できず、合理的な意思決定が行われません。

不正を長期化させる要因

正常性バイアス

自分にとって都合の悪い情報を無視し、「自分は大丈夫」「今回は大丈夫」などと過小評価してしまう

異常の兆候が発見されているにも関わらず、不正実行者による都合のよい説明を鵜呑みにして、問題がないと評価してしまう

現状維持バイアス・保守主義

変化により得られると見込まれる効果が同等であれば、変化するよりもしないことを好む

日常業務に当面支障がないのであれば、業務・システムの改善を先送りしてしまう

組織に波風を立てるようなデリケートな問題はあえて取り上げない

追認バイアス

いったんある決断をおこなってしまうと、その後に得られた情報を有利に解釈する

予算達成のための押込み販売をいったん容認してしまうと、それがエスカレートしても容認し続ける

苦手意識

自分がよく理解できない分野や、自分より他の人の方が有能である領域には関わりたくない

スペシャリストが運営している部門(海外部門やシステム部門)に、異常な兆候や不自然な取引があっても、深く立ち入ることをせず放置してしまう

不正が長期間に渡って発見できなかった事例

最後に事例を確認します。

不正が長期間に渡って発見できなかった事例

経営者の危機管理対応

不適切な会計処理の兆候以上の事情を把握しながら正確な問題把握を怠り、ごく一部の役員等のみで解決しようとして失敗した。

データの信頼性に関する認識

親会社の経営者は、会計システムから配信されるデータが改ざんされていることを、首謀者からの告白を受けるまで疑ったこともなかった。

会計システムの仕様に関する認識

会計システムの機能の一部である売上債権と在庫の連動性が解除されたまま、長期間にわたり見直しが行われなかった。
何故そのような仕様とされたのか、経緯を知る者がいなかった。

不適切な会計処理の全容を知る者

首謀者だけが不適切な会計処理の全容を把握していた。本件に関与させられた従業員は、一部の作業を首謀者からの指示を受けて担当していただけなので、首謀者に対して疑問を持つこともなかった。

まとめ

金融庁が、東芝の不正会計問題を受けて、
「監査法人に対する検査・監督を強化する方針を固めた」
という一部新聞報道がありました。

不正を見落とした責任ばかりが注目されているようですが、
監査法人を締め上げたところで不正が減るわけではありません。

そもそも、ほとんどの会社は不正をしておらず、
悪い会社だけが特別目立っているに過ぎません。

それなのに、一律に監査法人に対する検査を厳しくすれば、
金融庁に説明するためだけの監査になることは目に見えています。
(今、すでにそうなっていますが。)

不正をすれば、巧妙に隠そうとするのは当然で、
それを見つけるのは、どんなに熟練の会計士でも至難の業です。

なので、起きてしまった不正を見つけることよりも、
「どうすれば不正が起きないか」
と、不正を防止することを考えた方が建設的だと思います。