繰延税金資産の回収可能性の判定はなぜ必要か

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Paperwork / kozumel

税効果会計の実務に初めて触れたのは
10年以上前のことになります。

税効果会計が日本に導入されたのが
2000年3月期なので、
導入されてまだ間もない時期です。

その当時の私の感想は、
「繰延税金資産なんて、いらないんじゃないの?」
というもので、私の周りの先輩会計士も同じ感想でした。

単に計算が面倒だというだけでなく、
繰延税金資産は本当に資産なのか?
という点が、しっくりこなかったからです。

自己資本のかさ上げに使われた?

税効果会計が導入された直後の2001年~2002年頃、
大手銀行は生き残りをかけた大型合併を行っていました。

・三井住友銀行
・三菱東京フィナンシャル・グループ
・UFJホールディングス
・みずほ銀行

これらメガバンクが誕生し、
繰延税金資産は当時のメガバンクの決算によって
一躍有名になりました。

というのは、新聞報道などで、
「赤字なのに繰延税金を計上し、自己資本をかさ上げした」
と、連日のように批判されていたからです。

この批判は、メガバンクの業績が回復することで
収まることになります。

繰延税金資産は本当に資産なのか?

今では、繰延税金資産は完全に実務に溶け込み、
このような議論はなくなったように思います。

しかし、繰延税金資産がなぜ資産なのか、
わかり辛いことには変わりがありません。

そこで、
「なぜ赤字で繰延税金資産を計上することが問題なのか?」
を理解するために、

・繰延税金資産とは何か?
・繰延税金資産の回収可能性の判定はなぜ必要か?
・繰延税金資産の回収可能性はどうやって判定するのか?

これらを初心者向けに解説したいと思います。

繰延税金資産とは何か?

ずばり、税金の割引券です。

ここでのポイントは、
税金の前払ではないということです。

というのは、前払であれば、いずれ返ってくるお金ですが、
繰延税金資産は割引券と同じで、使わないと価値がありません。

使うというのは、将来、利益(厳密には課税所得)を出して
税金を支払うということです。

税金を支払う際に、繰延税金資産の金額と同じだけ、
税金を減らすことができます。

次に、繰延税金資産には、
割引券と同じく有効期限があります。

繰越欠損金の繰越期間は9年なので、
それが有効期限になります。

有効期限以内に使わないと紙切れになるところが、
割引券と同じと言えます。

繰延税金資産とは何か?という点をおさらいすると、
以下の2つがポイントになります。

①使わないと価値がない
②有効期限がある

繰延税金資産の回収可能性の判定はなぜ必要か?

財布にパンパンに入っている割引券を想像してください。
ほとんどがゴミになると思います。

それに対して、厳選した割引券だけを
財布に入れている場合はどうでしょうか。

使うことが決まっていれば、割引券であっても、
お金とほぼ同じ価値があります。

繰延税金資産の怖いところは、
使う予定がないとゴミになることです。

現金などの資産と同じようにBS計上するために、
ゴミになる割引券を捨て、使う割引券だけ残す。

このことが
繰延税金資産の回収可能性の判定
が意味するところで、必要とされる理由です。

回収可能性はどうやって判定するのか?

本来あるべき判定方法は、
将来の利益(課税所得)を予想して繰延税金資産を計上する
というものです。

しかしながら、将来どれだけ利益が出るか、
それがわかる人はいません。

なので、日本基準では、
誰が見ても客観的な数字である過去の業績にもとづいて、
繰延税金資産の回収可能性を判定することにしました。

そのための指針が、監査委員会報告第66号
「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」です。

とても有名な指針です。

現在、この指針は改正に向けて見直し作業中で、
公開草案まで公表されています。

公開草案にご興味があれば、こちらの記事をご覧ください。

話を戻して、監査委員会報告第66号は、
過去の業績にもとづいて会社を5つに分類し、
それぞれの分類で、どれだけ繰延税金資産を計上できるか
を定めています。

以下、5分類を順に解説しますが、
ここから各論になるので、
ざっくり解説することが難しくなります。

その点はご容赦ください。

繰延税金資産を大まかに理解できれば良いという方は、
ここまで読んでいただければ、大丈夫と思います。

なお、解説にあたり、分類ごとの細かい論点は省略します。

① 期末における将来減算一時差異を十分に上回る課税所得を毎期計上している会社等

期末における将来減算一時差異を十分に上回る課税所得を毎期(当期及びおおむね過去3年以上)計上している会社等で、その経営環境に著しい変化がない場合には、通常、当該会社が、将来においても一定水準の課税所得を発生させることが可能であると予測できる。したがって、そのような会社については、一般的に、繰延税金資産の全額について、その回収可能性があると判断できる。なお、この場合には、前述4.のスケジューリングが不能な将来減算一時差異についても、将来スケジューリングが可能となった時点で課税所得が発生する蓋然性が高いため、当該将来減算一時差異に係る繰延税金資産については回収可能性があると判断できるものとする。

将来減算一時差異に税率をかけたものが繰延税金資産になります。

将来減算一時差異を十分に上回る課税所得を毎期計上している会社は、
繰延税金資産を無条件に全額計上することができます。

①に分類される会社はとてもレアで、
私はいまだに①に分類された会社を見たことがありません。

② 業績は安定しているが、期末における将来減算一時差異を十分に上回るほどの課税所得がない会社等

過去の業績が安定している会社等の場合、すなわち、当期及び過去(おおむね3年以上)連続してある程度の経常的な利益 を計上しているような会社の場合には、通常、将来においても 同水準の課税所得の発生が見込まれる。したがって、そのよう な会社については、一時差異等のスケジューリングの結果に基 づき、それに係る繰延税金資産を計上している場合には、当該 繰延税金資産は回収可能性があると判断できるものとする。

安定的に利益を出している優良企業は②に分類されます。
②に分類される会社も、ほぼ無条件に繰延税金資産を計上できます。

①と②の違いは、①はスケジューリング不能な繰延税金資産
(将来いつの時点で繰延税金資産を使うかが、わからないもの)
であってもBS計上できることです。

②はスケジューリング可能な繰延税金資産に限られます。

③ 業績が不安定であり、期末における将来減算一時差異を十分に上回るほどの課税所得がない会社等

過去の業績が不安定な会社等の場合、すなわち、過去の経常的な損益が大きく増減しているような会社の場合には、通常、過去の業績等により長期にわたり安定的な課税所得の発生を予測することができない。したがって、そのような会社については、将来の合理的な見積可能期間(おおむね5年)内の課税所得の見積額を限度として、当該期間内の一時差異等のスケジューリングの結果に基づき、それに係る繰延税金資産を計上している場合には、当該繰延税金資産は回収可能性があると判断できるものとする。

業績が不安定な会社の場合、繰延税金資産を全額使えるのか不透明です。

なので、将来5年間で発生すると見込まれる課税所得の範囲内で
繰延税金資産を計上できるようにしました。

②と③の違いは、③は5年までという縛りがあるところです。

④ 重要な税務上の繰越欠損金が存在する会社

期末において重要な税務上の繰越欠損金が存在する会社、過去(おおむね3年以内)に重要な税務上の欠損金の繰越期限切れとなった事実があった会社、又は当期末において重要な税務上の欠損金の繰越期限切れが見込まれる会社の場合には、通常、将来の課税所得の発生を合理的に見積ることは困難と判断される。したがって、そのような会社については、原則として、翌期に課税所得の発生が確実に見込まれる場合で、かつ、その範囲内で翌期の一時差異等のスケジューリングの結果に基づき、それに係る繰延税金資産を計上している場合には、当該繰延税金資産は回収可能性があると判断できるものとする。

イメージとしては、割引券で財布がパンパンの会社です。
そのような会社は、繰延税金資産を全額使用することは難しいと判断されるため、
翌期1年間で発生すると見込まれる課税所得の範囲内で繰延税金が計上できます。

③と④の違いは、③は将来5年まで、④は翌1年まで、であることです。

⑤ 過去連続して重要な税務上の欠損金を計上している会社等

過去(おおむね3年以上)連続して重要な税務上の欠損金を計上している会社で、かつ、当期も重要な税務上の欠損金の計上が見込まれる会社の場合には、通常、将来の課税所得の発生を合理的に見積ることができないと判断される。したがって、そのような会社については、原則として、将来減算一時差異及び税務上の繰越欠損金等に係る繰延税金資産の回収可能性はないものと判断する。

ずっと赤字の会社です。
将来にわたり繰延税金資産を使うことはないと判断され、
繰延税金資産はまったく計上できません。

IFRSとの違い

過去の業績にもとづいて会社を5つに分類し、
繰延税金資産の回収可能性を判定する
このやり方は、日本独自のガラパゴス・ルールです。

IFRSには存在しない考え方です。

税効果会計の本質的な考え方は同じはずですが、
特に④に分類された会社では、日本基準とIFRSで
繰延税金資産の計上額が大きく異なります。

現在、日本基準をIFRSに近づけようとしているため、
委員会報告第66号は、日本独自という点で批判されがちです。

しかしながら、
客観的な指標を設けることで、
・判断を明確にする
・監査をし易くする
という点では、非常に評価できるルールだと思っています。

以上、ご参考になれば幸いです。