内部監査の最大の課題

コーポレート・ガバナンス・コードの適用を受けて、
今までになく、コーポレート・ガバナンスが注目され、
さらなる強化が必要だと言われています。
しかし、コーポレート・ガバナンスの強化と言われても、
- 何を
- どうやって
というところが抜け落ちていて、
よく意味わからないのではないでしょうか。
その結果、社外取締役の選任という
わかりやすくて、外から見えやすい方策ばかりが
注目されているのだと思います。
社外取締役が注目されることで、私が不憫に思っているのが、
社内で日々がんばっている内部監査部門の人たちです。
内部監査の悩みは深い
たまに、内部監査をサポートして欲しいという依頼があり、
内部監査部門の人のお話を聞くのですが、
正直にいうと、めちゃくちゃ難しい仕事だと思っています。
というのも、内部監査の悩みの9割ぐらいが、
社内での立場が弱いというものです。
内部監査部門は、社長直属の組織と言いつつも、
たいていは単なるポーズで、力がありません。
社長にも、内部監査が大切だという認識はあっても
営業の方が優先すべきだと考えています。
もっと言えば、営業の下支えをするべきで、
邪魔をしてはいけないと考えられています。
さすがに、営業より内部監査が大事だとは、
私も思っていないので仕方ないのですが、
営業重視の意識は、監査を受ける部門の人ほど強く、
結果、社内での立場が非常に弱くなっています。
社内での立場が弱いことで、
- 監査に行くと、ウザがられる
- 予算がない
という事態がおきます。
監査に行くとウザがられる
内部監査部門の人も、
もっと会社を良くしたいという意識で仕事をされています。
だからといって、はりきって仕事をすると
監査を受ける人の拘束時間が長くなるので、ウザがられます。
かといって、手短に終わらせて早く帰るようにすると、
「内部監査は楽でいいよな。いつも5時に帰れて。」
と、これまたイヤミを言われます。
つまり、がんばっても、がんばらなくても、
わずらわしい存在になってしまっています。
予算がない
失礼な言い方ですが、
内部監査部門の人はお金を持っていません。
1円もお金を生まないと思われているので、
もったいなくて予算をかけてもらえないのです。
なので、監査法人などが「内部監査の高度化支援」
といったサービスを売り込んでも、全然、儲かりません。
外部の人にコンサルティングを依頼できるような会社は、
かなり恵まれている方です。
基本は、自分たちでなんとかしろ、
J-SOXでお金をかけたから十分だろ
と思われています。
いきなり高いスキルが要求される
このようにウザがられる内部監査ですが、
実はめちゃくちゃ高いスキルが要求されます。
今まで、経理の経験がなかったとしても、
会計の知識は必須です。
当然、監査の知識も必須です。
年中、監査だけをやっている会計士でも大変なのに、
部署異動しただけで、それだけの知識が要求されます。
でもって、会計士は外部の人間なので、多少の甘えが許されます。
「貴社のビジネスがよく理解できていないので、教えてください。」
と言えば、たいていは快く教えてもらえます。
それに対して、内部監査部門の人は、甘えが許されません。
「同じ会社にいて、なんでわからないんだ。」と突き放されます。
海外では出世コース
これは聞いた話ですが、
海外の会社では、内部監査は出世コースで、
非常に強い権限が与えられているそうです。
大企業で出世コースに乗っている人が、
全ての部署をローテーションで経験するように、
内部監査という仕事は、
会社の全ての部門に精通している必要がある
という点で共通しているのかもしれません。
日本でも、出世コースの会社があるのかもしれませんが、やはり、
- 現場で最前線に立っている人が一番偉い
- 内部監査は1円にもならないので格下
そう思われているのが多数派だと思います。
立場を強くするのに近道はない
内部監査の立場を強くするのに、
一番効果があるのは、不正を見つけることです。
不正を見つければ、「ほら見たことか」
と社内で大きい顔ができると思うのですが、
まず見つかりません。
というのは、監査は相手の協力がないと成り立たないからです。
会議室で資料だけ眺めて、不正が見つかることはありません。
あとは、
社長が変わって、新社長が内部監査を重要視しているとか、
人事面で内部監査の人が優遇されるとか、
このようなことがあれば、立場が改善されるのでしょうが、
それは奇跡が起こるのを待つようなものです。
なので、結局は地道に「なぜ、監査をするのか」という
メリットなり必要性を何度も丁寧に説明するしかないのだと思います。
- 内部監査のツールを変える、
- 監査プログラムを見直す、
- チェックリストを作り込む
これらの作業も、もちろん大切ですが、
根本的な解決にはなりにくいです。
信頼を得ることに近道はないので、
だからこそ、会計士として
「内部監査のサポートほど難しい仕事はない。」
という結論になります。
依頼されれば、やりますが。
まとめ
コーポレート・ガバナンスの強化は、
社外取締役の選任ばかりに注目が集まることが、
違和感を覚えます。
東芝は、社内取締役4人に対して、社外が7人です。
素直に、お気の毒な状況だと思います。
私は、外部に頼らなくても
もっと内部で、できることはあるはずだと思っていて、
その一例として、内部監査が強くなればいいなと思っています。
言うほど簡単ではないのは理解していますが、
内部監査部門と、監査法人の外部監査が
がっちり協力できれば、もっと監査は良くなると信じています。