東芝の不適切会計に思う会計監査の限界

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東芝の不適切会計が連日のように

大きなニュースになっています。

 

決算修正額が当初の500億円から

1,000億円

1,500億円

2,000億円

 

と膨らみ続けており、

新国立競技場の建設費のような増え方です。

 

会計監査人である監査法人の

監査責任を問う声も大きくなっていて、

 

東芝の不適切な会計処理を見抜けかなった

新日本有限責任監査法人の社会的責任は極めて重い

 

とまで言われているようです。

 

しかし、今回のケースについては、

監査法人を責めるのは酷だと思っています。

(監査法人自体が不正に関与していれば話は別です。)

 

それは次の2つの理由から、

会計監査の限界を感じるためです。

 

1.工事進行基準の監査の難しさ

2.社長が関与した可能性

 

以下、順に見ていきます。

 

なお、不適切会計という言葉には、

ものすごく違和感があるります。

不正の意図がない限り「粉飾」とも言えないので、

マスコミが慎重な表現を使っているのだと思います。

 

今回の記事は不適切会計で統一します。

 

1.工事進行基準の監査の難しさ

 

工事進行基準は、今回の不適切会計で

一躍有名になった感があります。

 

工事進行基準を採用することで

工事の進捗度に応じて収益計上することができ、

その結果、リアルタイムに企業の活動の成果を

決算に反映することができます。

 

会計理論としての考え方は非常に合理的ですが、

監査をする立場から見れば、

これほど難しいものはありません。

 

工事進行基準には恣意性が入りやすく、

たとえば、総工事原価を低く見積もれば、

利益を先取りすることができます。

 

では、工事進行基準をどのように監査するのか?

 

会計監査で、工事進行基準を監査する際に拠り所になるのは、

主に①会社の説明と②過去の実績です。

他にも内部統制の評価などありますが、

直接的な監査証拠とはならないので割愛します。

 

①客観的な証拠がなく、会社の説明に頼らざるを得ない

 

受注時点で損失になることがわかっていた。

損失発生がわかった期で工事損失引当金を

計上して損益計算書に反映しないといけない。

 

言うのは簡単ですが、損失になることを決算の都度、

適切なタイミングで会計監査人が知ることは至難の業です。

 

  • 将来のことがわかる人はいない

損失になるかどうかは、あとで振り返って初めてわかることです。

 

  • 工事原価の中身を精査することは不可能

インフラ工事のような数年にわたる工事は、

工事原価の根拠となる見積書だけでも

百科事典を超える分厚さになります。

 

会計監査には時間的制約があります。

その中身を1件ずつ精査することは、現実的ではありません。

 

  • 工事原価は日々変動する

資材費や人件費などの建築費用は市況の影響をまともに受けます。

 

  • 会計監査人は、会計と監査の専門家で、工事の専門家ではない

被監査会社の業界のことは勉強していると思いますが、

机の上の知識に過ぎないので限界があります。

 

会社が、会計監査を通すために

実現不能なコスト削減計画を提示したとしても、

その計画が妥当かどうかの判断は結局、

会社の説明に頼らざるを得ないという現実があります。

 

②過去の実績は参考にはなっても工事損失引当金計上の決定打にはならない

 

工事案件の将来の収益を予測するにあたり、

過去の類似案件の実績を確認するのは監査の基本です。

過去実績が赤字だったら、

将来も赤字になると予測するのが自然な流れです。

 

しかし、過去実績を使用するにも限界があります。

 

  • 過去に類似案件がない

大型の工事案件はフルオーダーメイドであるため、

同じような工事が2つも3つもあるとは考えにくいです。

さらに、何とか似ている工事が見つかったとしても、

どの工事を選ぶかという時点で恣意性が入ります。

 

  • 会計基準や監査基準では、白黒はっきりさせるような書き方をしない

「過去実績を見て赤字が継続している場合は、

工事損失引当金を必ず計上しなければならない」

このように言い切ってくれれば監査も楽になるのですが、

残念ながら言い切ることはありません。

 

過去数年にわたり赤字を垂れ流したとしても、

将来の合理化や改善計画を考慮する余地を必ず残しているため、

過去実績だけでは、経営者にNOと言うことができません。

 

少しだけ脱線しますが、過去実績から将来を予測することを

具体的に監査上の判断に取り入れた代表的な実務指針として、

「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」

(監査委員会報告第66号)があります。

 

この実務指針は賛否両論あって、

ちょっと強引なところもあります。

 

日本だけのガラパゴスルールであることは間違いないのですが、

過去の業績に基づく具体的な判断基準を示したという点で、

評価されるべきものです。(もちろん判断にあたり解釈の余地は残っています。)

 

2.経営者が関与していた可能性

 

現在調査中ですが、社長の関与が認定される可能性があるようです。

少なくとも経営者による業績プレッシャーは相当なものだったそうです。

 

経営者によるプレッシャーというのは、

監査の教科書的には、不正リスクが高まる典型例です。

 

しかし、プレッシャーがあったから注意して監査せよと言われても、

具体的にできる監査上の手当は限られています。

 

中でも、社長が関与していたら手も足も出ません。

 

会計監査では、「経営者による内部統制の無効化」

という表現が使われます。

 

経営者は、企業が構築した内部統制(監視体制や管理体制など)を

無効化することによって、会計記録を改ざんし、

不正な財務諸表を作成することができる特別な立場にある。

 

という意味です。

 

当然のことですが、会社内に、経営者に逆らえる人はいません。

従業員は言うまでもなく、監査役でも難しく、

コーポレートガバナンス・コードによって増加した社外取締役でも、

経営者に意見することはできないと思います。

 

東芝が今回の不適切会計を契機に

管理体制の見直しを進めたとしても、

経営者が関与しているのであれば、

それは意味のない作業になります。

 

工事進行基準でなければNOと言えたかも

 

さすがに、経営者が白黒はっきりしている

会計処理を黒にしようとしたのであれば、

会計監査人もNOと言うはずです。

 

しかし、工事進行基準のような複雑な見積りが対象となると

NOと言うための客観的根拠がないため、途端に難しくなります。

 

監査報酬を会社からもらっている時点で限界があります。

 

多額の監査報酬を前にして、監査契約を解除する覚悟で、

根拠のしっかりしない意見を通すのは現実的とは思えません。

 

正直、誰が監査しても同じ結果になったはずです。

(なお、私は新日本有限責任監査法人

と利害関係はありません。)

 

不適切会計は、今後も増えると思います

 

会計基準は日々変化し、困ったことに、

日々複雑になり続けています。

 

会計理論としては、非の打ち所がないように

整備されつつありますが、

「本当に監査ができるのか」という視点では、

あまり議論されていないように思います。

 

なかでもIFRSは、経営者の意図を

反映し易い会計基準だと思いますし、

IFRSは導入するよりも、それを監査し続けることの方が

よっぽど難しいことだと思います。

 

会計基準が複雑になるほど、客観的な判断が難しくなり、

不適切会計は今後も増えていくのではないでしょうか。